好きなものに囲まれる家は、居心地が全然違うんです。 有野台住宅 高橋幸子さん

村崎恭子

村崎恭子

ライター/エディター/プランナー。インタビュー取材と企画書づくりが大好き。古いものをいかすしくみやものづくりに関心が高め。「時代をつくる、いとしきものたち」をコンセプトに、つくり手のストーリーをインタビュー記事で紹介するエシカルショップ「メルとモノサシ」を運営しています。 https://meltomo.theshop.jp/

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神戸市北区・有野台団地を訪れたのはちょうど桜が満開の頃。

「この団地って閉鎖的じゃないのがいいでしょう?」

4階の部屋をリノベーションして暮らす高橋幸子さんは、有野台団地をそんな風に紹介してくれました。なるほど、角部屋でなくても南北の窓からしっかりと光が入り、昼間は電気をつけなくても部屋じゅうが十分な明るさ。窓から見える隣の棟との距離感も気にならず、春の風がカーテンを揺らしながらふんわりと通り抜けるさまは、快適そのものです。

今回は、このお家での暮らしをちょっとのぞかせてもらうことにしましょう。

 

 

きっかけは「あリノベ賃貸」との出会い

高橋さんがここに住み始めたのは2020年11月。看護師として忙しく働きながら、中学生・高校生の娘さんと3人で暮らしています。

シングルマザーとなってしばらくの間は、ここから徒歩圏内にある実家に住みながら看護師の資格を取るために学校へ通っていたという高橋さん。ご両親の支えに感謝しながらも、8畳の部屋で母娘3人が寝起きする生活はストレスも多く、働き始めてからすぐに家を探し始めたそうです。

思うような物件になかなか出会えず途方に暮れていた頃、不動産屋から紹介されたのが、神戸すまいまちづくり公社が手掛ける「あリノベ賃貸」でした。専門家のサポートを受けながら有野台団地の空き住戸をDIYでフルリノベーションし、格安の家賃で住むことができる企画物件です。

高橋さん:

自分の理想のお家は予算的に難しくて。好きじゃないものには1円も出したくないタイプだから妥協もできず時間が過ぎていきました。

そんな時に不動産屋さんから「自分でつくってみるのは興味ないですか」って「あリノベ賃貸」を紹介いただいて。DIYなんて考えは毛頭なかったのでびっくりしましたが、プロの設計士さんがついてくれる・好きなインテリアにリノベーションできる・工事費は負担しなくてOK・家賃が安い・実家から徒歩圏内と、私の理想が全て合致したんですよ

理想の家にするため、嫌いなDIYに挑戦

そのサポーターを務めたのが小畦雅史建築事務所。インスタグラムにあった施工事例は高橋さんの「好みのドンピシャ」だったそう。「この人なら間違いない!」と契約を決め、リノベーションの相談をする中で次々と理想のイメージをかなえていきました。

間取りはシンプルに、1人1部屋+ダイニングと水回り。「好きなものに囲まれる」という3人共通のコンセプトどおり、3人の部屋にはそれぞれのこだわりが反映されています。

高橋さんの部屋は、ベッド横の色壁とプロジェクターを投影する真っ白の収納建具がポイント。モデルルームで見た黒板塗料の色に惹かれて選んだペンキの色は、部屋全体を引き締めながらも柔らかい雰囲気をつくっています。元々は押入れだった収納の建具を真っ白に塗り、ベッドでくつろぎながらプロジェクターを楽しむという憧れの生活を実現しました。

 

 

高校生のお姉ちゃんは大の漫画好き。壁一面につくった本棚には漫画がぎっしりと並びます。シックなグレーの壁色も、こだわって選んだものだそう。

 

 

中学生の妹の部屋は、大好きなK-POPアイドルのグッズをディスプレイしやすいつくりに。壁の色に選んだのは落ち着いたベージュ。隣り合う姉妹の部屋の壁色の相性がバッチリで、仲の良さが伝わってきます。

 

 

「DIYでの家づくりはさぞ楽しかったのでは?」と聞くと、高橋さんは意外にも苦笑い。

高橋さん:

私、ものづくりが嫌いなんです(笑)インテリアは好きだけど塗ったりつくったりするのは好きじゃない。でも自分で参加するのが「あリノベ賃貸」の条件でした。あくまで小畦さんはアドバイザーで、メインは自分。できれば出来上がったものに住みたいけど、やらせてもらうことで理想の家に低価格で住めるなら…と、義務感で取り組みましたね(笑)

とはいえ、さすがは自他共に認める「やるとなったらきちっとやりたいタイプ」の高橋さん。フローリングを貼ったり壁を塗ったり、仕事の休みを全て作業に費やし、約2ヶ月間で理想の住まいが完成。キッチンのタイルを近くで見てみると、素人がやったとは思えないほど美しい仕上がりです。

 

 

学校が休みの日は娘さんたちも一緒に作業をしたそう。「やっぱり自分たちでくったから愛着が湧きますよね」と、DIYだからこそ得られたものがあったようです。

 

 

休みの日は家でゆっくりする生活に

理想の家での暮らしが始まってからというもの、高橋さん一家の生活は大きく変わったといいます。

高橋さん:

やっぱり、家が好きになりますよね。好きなものに囲まれているから居心地が全然違うんです。前まで休みの日は「出かけたい」だったのに、ここに来てからは「家でゆっくりしよう」になりました。

掃除や片付けなど、生活をより快適にすることを追求する時間になっています。出かけるとしても家のため。「いい香りのアロマオイルを買いに行こう」とか、生活の質を高めるものを買いに出る感じですね。

月に数日は高橋さんが夜勤で不在になることも。そんな日は姉妹で協力して家事をしているそうです。「生活力が培われるから、このタイミングで実家を出られてよかった」と話しながらも、ちょうどこの日の朝、娘さんが自分でパパッと朝食の準備をして登校していく姿を見て成長ぶりに驚いてしまったとか。

 

 

「後悔はない」「完全に理想がかなった」と本当に満足そうな高橋さんからは、家への愛と誇りを感じます。嫌いなDIYにも積極的に取り組めたのは、「好みドンピシャ」の設計士と出会い、理想を実現できたから。

高橋さん:

プロのアドバイザーがついてくださったのでだんだんと形が見えてきました。リノベーションって業者選びが肝心だと思いますね。その事務所の作品を見て、自分の好みと合うかどうか。

契約期間は2年間ですが、高橋さんは「その後も住み続けると思う」と、時間をかけてここでの暮らしを育てていくようです。「あとは犬が飼えたらベストなんですけどね(笑)」と、ちょっとハードルの高い夢も教えてくれました。

 

 

話を聞いているこちらまでもワクワクしてしまうような高橋さんの暮らしを見ていると、「好きなものに囲まれること」「自分たちの手で住まいをつくること」こそ、これからの“いい暮らし”における大事な要素になってくる気がします。

今の住まいの気になるところを少し変えてみたり、壁だけ塗ってみたりと、家の中に少しずつ自分の手で「好き」を増やしていくのもいいかもしれません。自分の家を好きになることは、人生をも変える力を持っている。高橋さんのお話からはそんな可能性が感じられました。

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オーダーのポイント

1)好きなものに囲まれる

2)プロジェクターを置く

3)広いベッドで1人で寝る

4)壁を好きな色にする

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DATA

用途:共同住宅の1住戸

構造:RC造5階建ての4階

工期:2か月

費用:施主負担0円

業務内容:内装設計、工事監理、DIYサポート

DIY内容:無垢フローリング張、壁・天井面ペンキ塗装、床Pタイル張、キッチンタイル張、可動棚設置

所在地:神戸市北区有野台住宅

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