小畦さんには、一生関わってほしいんです。 漬物茶屋たけちょう  店主 武長佳子さん

二階堂 薫

二階堂 薫

だれもが自身の言葉を持って、自分の未来を言葉で磨けるようになったらいいなと願うコピーライター。ものごとの根っこを見つめて言葉化していく過程を重視し、考える、聞く、書く、話す、伝える…を支える裏方です。インタビューや伝わる言葉の講座も。

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写真/片岡杏子

日本の将来のために、何かしよう。

きっかけは『若杉友子の「一汁一菜」医者いらずの食養生活』という本との出会い。私の肌の疾患が病院に行っても治らず、症状を緩和するだけで根本からは治せないんだと悟って…食べ物が体をつくるのだからいいものを食べよう、と考えるようになったことでした。2015年2月、若杉さんの講演会に行った夜、京都の居酒屋で「若杉ばあちゃんみたいに、日本の将来のために何かしよう」「店を開こう」と主人が言い始めて。その場で友人に電話したら、継ぐ人がいなかったり、商店街から無くなった店を題材に事業をつくるリノベーション起業カレッジが地元・神戸の水道筋商店街で行われるよと。テーマのひとつが漬物屋だと聞いて「漬物屋なら、いけるんちゃう」と。漬物は好きだし、発酵食品は体にいいし、日本の伝統食やしと主人はピンと来たみたい。漬物について何も知らないから、私は不安だったのですが…。


建物じゃなく、クマについて語る人。

小畦さんとは、それから3ヵ月後に参加したリノベーション起業カレッジで出会いました。撮影係のカメラマンだと思っていたら、チームで調査しに行く電車の中で正体を知ったんです。王子動物園のクマ舎づくりに関わったそうで、クマにとって心地いい環境とか、クマの気持ちとか、もうクマのことばかりしゃべってた(笑)。建築家のイメージが変わりましたね。いい人だなと思ったし、おもしろいなって。さらに、小畦さんがプレゼンするリノベーション研究会に参加したら、活動紹介写真の1枚目が私たち行きつけの「海の家カッパ天国」だったんです。どの写真も小畦さんらしくて、こういう写真を撮る人はいいな、視点がいいなと。のんびりした口調、夢と希望を詰め込んだ空気感も含めて、頼むなら小畦さんしか考えられへんと勝手に信頼しちゃったんですよね(笑)。飄々としたテンポが合う人って、そういないし。


とにかく安く、あるものを使って、おしゃれに。

まず相談してみようと思ってお会いしたら、小畦さんがどんどん乗り気になって「図面を描きますね」「えっ描くの?」って。はっきり依頼したかどうか覚えていないんですが、流れが自然で、一緒に作ってもらった感が強いです。注文は、ほとんどつけませんでした。友人から譲り受けたカウンターや厨房機器、棚などをすべて使いたい、できるだけ安く、というくらい。その後、自分たちが好きなのはこれ!という写真を送り続けました。いろんな店舗やディスプレイ、雑貨、ドアやショーケース、雑誌の記事なんかを何十枚も。そうして上がってきた初めの図面は、斬新すぎて。店の前にテラス席、奥が販売コーナーで…買いたい人が気軽に買いづらい構造でした。次の図面は、イメージどおりになっていましたが(笑)。壁塗りはワークショップ形式で行い、友人に声をかけたら50人くらい来てくれて。その後は毎晩、防水のプロがやって来て仕上げを担当してくれたり…この店は、大勢の友人やリノベーション起業カレッジで知り合った仲間たちの優しさでできているんですよね。


もっと市場に、いろんな世代に来てほしい。

本当に何もわからないところから始めたので、漬物やお店を経営することについて、あちこちに学びに行きました。元漬物屋さんをはじめ、いろんな人から「漬物屋なんて絶対やめとき」「色がついてない漬物は売れないよ」とネガティブなことばかり言われて、逆にチャンスだなと。漬物屋だけではだめなのか、じゃあ飲食スペースを設けよう、食の大切さを伝えるイベントもしよう、子育て世代に伝えていけたらいいな、もっと市場に人が来るといいな…と夢がふくらんでいったんです。作りたかったのは完全無添加の漬物や味噌、醤油など発酵食品を販売するところと、一汁一菜メニューや純米酒を味わえるイートインスペースがあるお店。ほとんど注文していないと言いましたが、昔ながらの漬物屋スタイルは今の時代に合わないだろうとディスプレイにはこだわりました。漬物はショーケース、味噌はホーローの容器に入れて。その結果、漬物屋らしくない漬物屋に仕上がったんじゃないかなと。開店した時は、小畦さんに頼んでよかったなと思いました。すてきな過程を詰め込んだフォトブックをいただいて、さらに。


いい塩梅の扉の次は、強度と目隠し。

オープン時点では、扉の設置を諦めていました。開放的すぎて絶対寒いとわかっていたけど、予算が足りなくて。暖房が効かず、1日の灯油代が1,000円以上かかるようになったので、開放感を残しながらも「割烹みたいな」いい塩梅の扉をお願いしました。実は他にも、困っていることがあるんです。家を建てた人に分けてもらったフローリング用の板を棚として取り付けてもらったのですが、強度が弱く、重いものが置けなくて…。できるだけ安く、あるものをおしゃれに活用したいとお願いしたのは私たちなんだけど、もう少し強度はほしい(笑)。そしてもうひとつ、ビールサーバーと空き瓶置き場をおしゃれに安く隠せないでしょうか。この店は小畦さんの作品で、僕がデザインしたんですと言ってもらえるようにしておきたいから、よっぽどのことがない限りは勝手に手を入れるわけにはいかないんです。神戸・水道筋商店街の灘市場内にオープンして、1年半。小畦さんにはこれからも、一生関わってほしいです。

「漬物茶屋たけちょう」リノベーションの様子はコチラ

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オーダーのポイント

1)とにかく安く。
2)あるものをすべて活用してほしい。
3)漬物屋ってこういうの、という発想を捨てる。

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DATA

用途:店舗
構造:木造2階(リノベーション)
工期:1.5ヵ月
費用:約2,000,000円(工事部分のみ)
業務内容:内装設計、工事監理、DIYサポート、DIYイベント企画実施
DIY内容:壁面黒板塗装、壁面木部クリア塗装、壁・天井面ペンキ塗装
所在地:兵庫県神戸市灘区

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